舞い散る日々のなかで踊れ

散財していくタイプのおたく。

宇多田ヒカル LAUGHTER IN THE DARK TOUR 2018

宇多田ヒカルのライブを観た。

「暗闇のなかで笑う人」(だと思ってたんだけど正確には笑い声みたい)というツアータイトルがいいなあ。

絶望のなかの希望みたいで。闇に視界を囚われてなかなか光を感じられないときも多いんだけど。でも、そうありたい。 そんなことを考えさせられるタイトルであり、ライブだった。

衣装にもそれが現れていた気がした。

はじめは黒一色のドレス。後半は白と黒でできたドレス。1曲目にこなきゃラストだろうと考えていた曲(このあとそれだけ書くので、もしこれを読んでいるひとがいて、知りたくなければ気をつけてください)のときに白一色になるかな?と思ったけれど、ならなかった。やっぱり人間、光のみでは生きられない。光があるところに影は落ちる。からこそ人間だよなって思う。

1曲目がはじまり、はじめて歌う彼女を生で観て「愛のひと」だな、と言う感情が湧いた。歌う声なのか言葉なのか、存在なのかオーラなのか、もしくはそのぜんぶなのか、わからない。立つステージそもそもが違うのかもしれない。上質なひと、という言い方は適切ではないかもしれないけれど、もう人間としてのレベルが違うというか…でもけして神とかでなく、まぎれもなく「ひと」で、しぐさや笑顔、トークひとつとってもすごく可愛らしくて人間らしいのに、纏うものや溢れるものがもうぜんぜん違う次元。あれだけそう感じる存在をはじめて見た。

だけど、ライブが進んでいくにつれて「境界のないひと」だという印象へ変化もしていく。男性と女性とか、おとなとこどもとか、そういう境界線が曖昧。自由にスイッチングしている、というか、なんていうか、繰り返すようだけど、たぶんすごく「ひと」なんだと思う。ひとであり個。しぜんに。性別とか国籍とか、あと年齢もかな。そういう人生のいちおうの肩書きみたいなものでものごとを判断してしまうところが、好むと好まざるとに関わらず、日常のなかにはままあるけれど、そういうところからも自由になれるし、そう在るべきなのだほんとうは。そんなことどうだってよくて、ただ「ひと」という存在を軽やかに生きる。絶望と希望の両方を抱えて。それをナチュラルに体現しているひとなのかも。

 

本編のラストが「Play A Love Song」なんだけど、ここに辿り着くまでのセトリが完璧だった。20周年、しかもとても久々のツアーってこともあるのか、みんなが聴きたい曲、お馴染みの曲もきちんと交えつつ、ここに行き着く過程がすばらしすぎた…

MCで本人も言っていたけれど、今年、宇多田ヒカル椎名林檎がおなじく20周年を迎えている。

ふたりとも、歌っていることはけっこう似ているのかなって感じる。それは「明日何が起こるかわからない」ってことで、子供の頃の体験が根幹にあるのだろうけれど、ヒカルちゃんはそれが外側から(親の離婚とか引っ越しとかそういう環境の変化とか)、林檎さんは内側から(今日という日は二度と来ないとか子供の頃から言って泣いてた)発生しているように思う。

今年発売された「初恋」と「逆輸入ー航空局ー」を聴いたとき、20年かけてふたりが辿り着いた場所が、ヒカルちゃんは「Play A Love Song」であり、林檎さんは「人生は夢だらけ」なのかなあとうっすら考えていた。今回の宇多田ヒカルのツアーがその曲で終わったことと林檎さんの「椎名林檎と彼奴等のいる真空地帯」のツアーのラストが「人生は夢だらけ」で終わったことを思うと、感慨深い。

たぶん「明日何が起こるかわからない」の極地が「ひとは死ぬ、いつか絶対に」だと思うんだけど、だからこそふたりとも、生きることにたいして、いいことも悪いことも、起こることぜんぶ含めて誠実に言葉紡いで、自分のなかのこたえを探しながら今を歌うのだと思った。アプローチの仕方は全然違うんだけど、このふたりが同時代に立って歌っている2018年はほんとうに最高だし、奇跡だ。

幸いにもどちらの20周年のツアーにも立ち会えたので、わたしは贅沢すぎるくらいの豊かさとエネルギーをもらえて、ほんとうにすてきな時間だった。たぶん、一生に何度もはない体験かもしれない。これだけ濁流みたいに流れ込んでくる年末は。

ヒッキーはまさかの写真も動画もOKというライブだったので、1枚、1曲くらい撮ればよかったんだけど、絶対撮影禁止、絶対電源オフのライブに慣れているせいでスマホを出すことすらためらわれてなにも残せなかった…うう…でも胸にはしっかり焼きついてるから…!

 

今年1年かけて溜め込んで煮詰めたものを11月のはじめにぜんぶ放出してしまって、今カラカラの空っぽでひたすら寝るくらいしかしてなくてわりと焦ってたんだけど、こうやってまた刺激を受けていろいろ体験して、感じて考えているうちに、少しずつ積もっていくんだなーと思ったら、来年も走れそうだなという気がしている。

まあいらないものはいらないんだけど、うれしいことも楽しいことも、悲しいことも嫌なことも、ぜんぶ抱えて走りたい。いろんな景色をみたいしいろんなものをかたちにしたい。